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訂正申請の結果についての社会科教科書執筆者懇談会の声明

訂正申請の結果についての社会科教科書執筆者懇談会の声明

 12月26日、文部科学省は、沖縄戦記述に関する高校日本史教科書6社8点の訂正申請について、審議経過とその結果を発表した。これについて私たちの考えるところを以下の通り表明する。
1.今回の訂正申請は、多数の県民を結集した9月29日の検定意見撤回を求める沖縄県民大会の決議を受け、政府・文科省が、検定によって書き換えられた教科書記述について訂正申請があれば対応すると表明したことによって具体化したものである。県民大会決議の核心は、検定意見の撤回と「集団自決」に関する記述の回復である。これを受けた訂正申請の受理である以上、事実上検定意見の誤りを認め、記述の回復をはかるための訂正申請の受理であったというべきである。
したがって、各教科書の当初の訂正申請文は、表現はさまざまではあるが、軍の強制という表現も含め検定前の記述の回復をはかるものである点は共通している。訂正申請の結果、その一部は認められ、検定後の見本本の記述がある程度改善された面もみられる。これは、沖縄県民の抗議や私たちの運動によって、当初の検定意見による書き換えがあまりにも不当なものであったことを認めざるを得なくなった結果といえよう。しかしながら承認された訂正申請文からは、日本軍が「集団自決」を強制したという趣旨の記述はすべて削除された。その根拠と思われるのは、検定審議会の「基本的とらえ方」と題する文書でみる限り、「それぞれの集団自決が、住民に対する直接的な軍の命令により行われたことを示す根拠は、現時点では確認できていない」という一文のみである。しかし沖縄戦研究が明らかにしてきたように、たとえば隊長命令のような形での軍の住民に対する直接の命令の有無にかかわりなく、日本軍の住民に対する支配・教育全体を通して「集団自決」が強制されたことは明らかであり、そのような研究成果にもとづいてこれまで教科書記述も行われてきた。「基本的とらえ方」でも、このような意味での日本軍の強制についてはとくに肯定もしていないが、否定もしていない。だとすれば、日本軍の強制という表現を訂正申請の審議のなかでふたたび削除させたことにはなんの根拠もない。12月28日に沖縄県民大会実行委員会が決定した政府・文科省への要請書のなかでも、結論として「『集団自決』の記述の中に『日本軍による強制』の語句を入れるとともに、検定意見を撤回されるよう、強く要請する」と述べている。
よって、今回の訂正申請の結果において、軍の強制を認めなかったこと、軍の責任をあいまいにしたことは、記述の回復とはいえないものであり、沖縄戦研究の成果を無視し、歴史的体験に根ざした沖縄県民の戦争の真実を伝えてほしいという切実な願いも無視したものであって、執筆者としてとうてい納得できるものではない。
2.文科省ならびに検定審議会は、あくまでも検定意見は正しかったとして撤回しない態度をつらぬいた。その前提のもとで訂正申請の審議が行われた結果、結局、検定意見と矛盾しない範囲内での記述しか認められない結果になったということができる。11月7日の「訂正申請提出にあたっての声明」で指摘していたように、基本的に検定意見が撤回されないかぎり、訂正申請によって問題が正しく解決されるとは考えられないということが現実となってあらわれたといわなければならない。また、検定意見が撤回されなければ、ひきつづき不当な検定意見とそれによる教科書の書き換えが今後も続くことになりかねないことを示している。やはり検定意見撤回が重要であることをあらためて示したと考える。
3.訂正申請の審議過程にも多くの不明朗な点があった。
第一に、検定審議会が「基本的とらえ方」なる文書を決定したことは、教科書執筆・編集に先立って公表されていた学習指導要領その他の基準とは異なる別の基準を、文科省への原稿提出後に新たに設けたことになる。これは、いわば試合開始後にルールを勝手に変更したに等しく、きわめて不当である。また、歴史事実について多様な記述のしかたを認めず、一つの歴史の「とらえ方」を執筆者に強制するものであり、「書かせる検定」を押しつける結果になった。これは検定審議会・文科省の越権行為である。まもなく告示されようとしている新学習指導要領のもとで、これと同じようなことがひろがることを危惧し、私たちはこれをきびしく批判するものである。
第二に、「基本的とらえ方」にもとづく記述の修正を、検定審議会は教科書調査官に委任した。その結果、実際には、教科書調査官の考えにもとづいて出版社との密室での口頭のやりとりによって訂正申請文が修正させられる結果となった。1でもふれたように、「基本的とらえ方」には軍の強制をとくに否定している文言はないのに、教科書調査官が軍の直接的命令だけでなく全体としての軍の強制も削除するよう指示している。そのような経過を検定審議会委員が了解していたかどうかも不明である。結局、「基本的とらえ方」の立案も含め、さきの検定と同じく、今回の訂正申請の審議も教科書調査官主導で行われたことが推定できる。
これらの点は、さきの11月7日の声明でも指摘した通り、現行検定制度に重大な問題点があることをあらためて示した。
4.よって私たちは、ひきつづき次のことを求めて活動をつづけていく所存である。
1)今回の沖縄戦記述に関する2006年度検定意見を撤回すること。
2)今回の訂正申請についての審議をやり直し、記述の回復を求めた当初の訂正申請をすべて基本的に認めること。
3)沖縄戦記述に関する訂正申請は次年度以降もひきつづき記述回復・改善をめざし追求する。
4)検定制度改善については、12月26日の文科大臣談話でも今年夏までをめどに検定審議会で検討すると言及していることをふまえ、それが抜本的改善となることをめざし具体的提言を検討しその実現のための運動をすすめる。改善の具体的内容としては、以下の点が考えられる。
①教科書調査官、検定審議会委員の人選を透明化、公正化すること。
②検定審議会の審議を公開すること。
③申請本(白表紙本)を申請時から公開すること。
④検定意見を、従来口頭で伝達されていた部分も含め完全に文章化すること。
⑤検定により記述内容の修正を求めるさいは、その学問的根拠を文書によって示すこと。
⑥検定の合格・不合格の決定に至る過程を、執筆者の見解がより尊重される方向で改善すること。
⑦検定意見に対する不服申し立てについては、実際に機能する制度にすること。
⑧検定規則に検定意見撤回についての条項を設けること。
⑨検定基準に沖縄条項を設け、それに対応して検定審議会委員に沖縄近現代史の専門家を任命すること。
⑩教科書調査官制度について、その権限を縮小ないしは廃止すること。
⑪検定審議会を文科省から独立した機関とすること。
⑫検定制度の段階的廃止を検討すること。
5)今後も教科書検定の実態を明らかにしその批判活動をすすめる。
6)小中高教科書全体にわたって、総合的に検討し記述の改善をはかる。
7)教科書採択制度の問題点を明らかにし、その改善にとりくむ。
 5.今回の沖縄戦検定問題に対する教科書執筆者としての対応は、決して迅速かつ十分とはいえなかった点を私たちは反省する。また、訂正申請決定の大詰めの段階では、時間的に切迫していた事情もあったが、相互の連絡・情報交換が十分にできなかったことも反省しなければならない。
しかし、昨年9月にいたって、ようやく社会科教科書執筆者懇談会を立ち上げ、今日まで4回にわたり懇談会を開催し、可能なかぎり共同して対処することができたことは、成果であった。そのなかで、訂正申請の内容についても、4社6冊については公開できたことも、これまでの検定の密室性をうちやぶるための一石を投じることができたのではないかと考える。
こうした成果をふまえ、検定意見撤回、記述の回復・改善を含め今後に残された課題にとりくむために、社会科教科書懇談会として活動を継続することを表明する。

2008年1月9日
呼びかけ人
      荒井信一 石山久男 宇佐美ミサ子 大日方純夫 木畑洋一 木村茂光 高嶋伸欣
      田港朝昭 中野 聡 西川正雄 浜林正夫 広川禎秀 服藤早苗 峰岸純夫
宮地正人 山口剛史 米田佐代子
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